川の果ての更に果てに

［これまでのあらすじ］　→　人魚姫シリーズ

人魚姫とズラタンはドラゴンポールを求めて旅を続けていました。
「次のポールはどこにある？」
「…あの底なし沼の中だそうです」
人魚姫の指差す向こうには恐ろしい底なし沼がありました。
ズラタンは笑います。
「それなら、水に強い人魚姫に任せればダブルハットトリックで楽勝だな」
「ダブルハットトリックかどうかは分かりませんが、今までと比べると楽なのは間違いないですね」
人魚姫も頷いて底なし沼に入ろうとしました。
『ここには入れんぞ～』
「えっ？」
何と、沼が口を利きました。
『この沼の中には入れんぞ。入ったらおまえを食ってやるからな』
「あわわわ…」
人魚姫は怖気づいてズラタンのところに戻りました。
「沼が意思を持っているというのは予想外だな。どうしよう」
『オイラの心を奮いあがらせたら水を吐き出してやってもいいぞ』
「は、はぁ…」
「それなら、俺様がいかに偉大であるかを説明して、おまえの心を奮いあがらせよう」
ズラタンは自分がいかに偉大な存在で、重要なゲームでゴールを決めてきたかをアピールします。が。
『あまり面白くないぞう』
「何だと。この沼！」
ズラタンは怒りますが、蹴っても水が跳ねるだけです。

さて、少し向こうの街ではしらみとのみがビールを造っていました。しかし、しらみがうっかりビールの中に落ちてしまい、大火傷をしてしまったのです。
しらみの大火傷に動転したのみは「わあわあ」と泣き始めました。
それを見てドアが「のみよ、どうして泣いているのか？」と尋ねます。
「だ、だ、だ、だって。しらみが大火傷をしたんだ」
「何だと？　それなら私はキイキイ鳴らすことにしよう」
ドアはキイキイと鳴りました。その音で目を覚ました箒が、どうしてキイキイ鳴いているのか尋ねました。
「しらみが大火傷をしてのみが泣いているのだ。これが鳴かずにいられようか、ホトトギス」
「ふむ。それならば拙者はすさまじい勢いで掃除をしよう」
箒はすさまじい勢いで掃除を始めました。それを見て車がどうして掃除しているのか尋ねました。
「しらみが大火傷をして、のみが泣いていて、ドアがキイキイ鳴いている。しからば拙者はすさまじい勢いで掃除をする。これ自明の理」
「ならワタクシはギューンと駆けてご覧にいれますわ」
車はギューンと駆けはじめました。それを見た堆肥がどうして駆けているのか尋ねました。
「しらみが大火傷をして、のみが泣いていて、ドアがキイキイ言ってるのですわよ。そして箒がすさまじい勢いで掃除をしているとあっては、ワタクシが持ち前の高燃費で駆けないわけにはいきませんわ」

米政府燃費調査でハイブリッド車「プリウス」が１位

「ならオイラは激しく燃え盛ろう」
堆肥は激しく燃え盛りました。それを見た木が尋ね、堆肥から話を聞いた木は激しく葉っぱを落としました。
近くの木が激しく葉っぱを落としているので、人魚姫は「どうして葉を落としているのですか？」と尋ねました。
「しらみが火傷をした。のみが泣いている。ドアはキイキイと鳴り、箒はすさまじい勢いで掃除をしている。そして車が駆ける。堆肥が燃えるとあっては、私は葉を落とさざるをえない」
「…では、私もしらみさん達のために何かしてあげましょう」
人魚姫はあたりを見回し、たまたま持っていた水瓶を沼の中に投げ入れました。
『…娘、何故水瓶を投げ入れた？』
「はい。しらみさんが大火傷をし、のみさんが泣いていて、ドアさんがキイキイと鳴っていて、箒さんがすさまじい勢いで掃除をしていて、車さんがギューンと駆け、堆肥さんは激しく燃え、木さんは葉を落としているのです。ですから私は水瓶を投げ入れました」
『何だと？　とすると、俺も何かせねばなるまい。そうだ。沼の水を溢れかえらせよう』
沼はそう言って、中にあった水を全部流してしまいました。そのため、しらみものみもドアも箒も車も堆肥も木も全部溺れてしまいました。
が、人魚姫は当然水の中はお手の物、ズラタンを掴んで何とか全部流れ出るまで耐えました。
「水がなくなりましたね」
「何でやねん！」
ズラタンが激しく突っ込みを入れますが、そういう話なのですから仕方ありません。ともあれ、水が全部なくなったので中にあったドラゴンポールを簡単に見つけることができました。
「しかしズラタン。あそこはあれでいいのでしょうか？」
水没してしまった街を見て、人魚姫が浮かない顔をしました。
「俺様達は先を急ぐ。過ぎたことをどうこう言っても仕方ないことだ。俺様が許すのだからみんな許すに決まっている」
こうして、人魚姫は五つ目のポールを手にしたのです。