このエントリはフィクションであり、実在の人物・団体とは関係ありません。
「チャンピオンズ・リーグ。そこで大活躍をすれば俺様もいつかバロンドールを…」
「あの、ズラタン?」
「何だ? 人魚姫」
「貴方はチャンピオンズリーグでも敗退してしまったはずですが…」
「何ぃぃぃ!? 何故だ、何故負けてしまったのだ!?」
どうやらズラタンはお約束でまたも自分に都合の悪いことは忘れていたようです。
(いや、貴方が不発だったから…と言いたいけど、暴れられるのも怖いし)
「おお、負け犬ではないか」
「ぬお!? 貴様は妖術師ジョゼ? 悪辣な奴め。何しに来た?」
「カカカカカ。負け犬の遠吠えは気持ちよいわ。しかも、余を裏切った負け犬となれば尚更のう…」
妖術師ジョゼは自信満々に腕組みしながらズラタンを見下ろしていました。
「ぐぬぬぬぬぬ」
「あ、あの、喧嘩はやめましょう」
人魚姫が自信なさげに割って入ります。
「時にズラタン。貴様練習のない日にはワールドカップ参加国の様子を見て回っているそうではないか」
「ああ、そこの人魚姫とな」
「余も興味がある。ついて行こう」
「えっ、練習とかはいいんですか?」
人魚姫の質問に、妖術師ジョゼはふんぞりかえって答えました。
「問題ない。妖術で分身を作り出して、練習指導を任せている。余はそうやって時間を作り、日々上を目指すことを忘れていないのだ。例えば…」
妖術師ジョゼは腕組みをしたまま膝からスライディングしました。
「こんなこととか」
次いで、人差し指を立てながら、走り出しました。
「こんなことをやれば、いかにもカッコいいだろう」
「時間作ってやることがそれかよ」
「ま、それも余の時間の使い方の一環だ。だが、今はフランスに興味を抱いている」
「フランス?」
「フランスには占星術師ダメネク…もといドメネクがいる。余の妖術とは毛色が違うが、勝つための神秘的な方法として、余は占星術に興味がある。そこでドメネクのことを研究したいのだ」
「あんな奴研究してどうなんだ? フランスなんてボロボロじゃねえか」
ズラタンの傲慢な物言いは気になるものの、人魚姫も同感でした。
「余は本物だ。本物は本物を知る。奴は本物だ。考えても見よ。奴はユーロの時は婚約者へのプロポーズのことだけを考えていた。優勝してプロポーズするのはカッコいいが、それは星の巡りがよすぎて、将来に禍根を残す。だから、奴は敢えてめぐりを悪くしてプロポーズしたのだ」
「そんなものなんですか?」
「そしてワールドカップ予選は奴の天邪鬼ぶりの真骨頂が現れている。考えてもみよ。奴の相手だったアイルランドの監督はトラパットーニだ。勝つこと以外に何の楽しみも見出さず、勝つためには手段を選ばないような奴だ。そんな相手に対し、よりエゲつない勝つためのみのやり方で勝ったのだから、ドメネクの星の強さたるやハンパではない」
「そんなものなのか?」
「そんなものだ。とにかく探しに行こう」
こうして、妖術師ジョゼの先導の下、2人と一匹?はフランスへと向かいました。
展開が早いですが、一行はドメネクがいるという塔の場所を突き止めました。そこは野蛮な徒が襲撃してこないよう万全の防護体勢のしかれている塔でした。
塔についてみると、何やら不気味な雰囲気が漂っています。
「ふむぅ。この邪気。ドメネクは儀式中のようだな」
「街でドメネクは門外不出の儀式を行っているという噂を聞きました」
「そう言われるとどうしても覗いてみたくなるな」
「ズラタン、貴様!」
妖術師ジョゼがズラタンの胸倉を掴みました。
「野郎!? 何をする」
「監督の門外不出の儀を覗き見ようなど、その監督を世間から抹殺するに等しい! そんな非道なこと、この妖術師ジョゼは…」
(悪そうに見えて、同業者のプライドは守るんですね。すごい人だ)
人魚姫は妖術師ジョゼを尊敬しそうになりました。
「この妖術師ジョゼ、100%賛成する!」
「ズコー!」
「だったら何で俺様に喧嘩を売りやがる!?」
「いや、余より先に発言したのが気にいらなかっただけだ。しかし…」
妖術師ジョゼは塔を一通り眺めました。
「入口がないな」
次いで上を見上げました。
「5メートルほどのところに一応窓がある」
「しかし、よじ上るにはつかむようなところがない。ズラタン、貴様の跳躍力で何とかなるか?」
「さすがにあの高さだとな…」
「ならば方法は一つしかないな」
3分後。
「ぐぬぬぬぬぬ。に、人魚姫、早く上りやがれ」
ズラタンが苦しそうに呻きました。
5メートルの高さまで伸びるのは簡単ではありません。そのため、ズラタンの肩の上に妖術師ジョゼが上り、そして、その上に人魚姫が上って、何とか窓にしがみつこうとしていたのです。
もちろん、ズラタンは嫌がりましたが、妖術師ジョゼの「体重とフィジカルを考えれば結果は火を見るより明らかだ」という言葉と、「それともズラタン、貴様の体力は余と人魚姫も支えられないほどの代物か?」という挑発に乗ってしまったのでした。
「も、もう少し…つ、つかまった」
人魚姫はようやく窓をつかみ、そろりと中を覗きます。
部屋の中は色々なものが散らばっていて、先が見えませんでした。しかし、視界を塞ぐ本棚の向こうから何やら呪術のような言葉が聞こえてきます。
「とりあえず調べてみます」
人魚姫は中に入りました。
「こらジョゼ。貴様妖術師のくせに5メートル程度の高さをどうにかすることもできんのか?」
「ふん。愚かなことを」
「何だと!?」
「いいか。相手は並の相手ではない。名うての占星術師だ。妖術を使えばバレて全てが無に帰しかねない。ズラタン、貴様もドメネクが何をしているか知りたいだろう?」
「むう。それは確かに」
「それに、余が調べてバレれば大スキャンダルになりかねないが、人魚姫が忍び込んでバレたのなら、『全部人魚姫がやったことです』とトカゲの尻尾きりで事は片付く」
「なるほど。さすがに貴様は頭がいいな」
「フン」
妖術師ジョゼは自信満々に腕組みをしました。
さて、忍び込んだ人魚姫は本棚の陰から部屋の真ん中を覗きました。
そこには魔方陣の中、一心不乱に水晶球に向かって祈りを捧げている占星術師ドメネクの姿がありました。
「オン・ベイシラ・マンダヤ・ソワカ。エーメン。ナムミョウホウレンゲキョウ。アッラーフ・アクバル」
「こちら現場の人魚姫。何だか分かりませんが…ものすごい執念を感じます」
おお、自由よ。汝の名の下に、いかに多くの罪が犯されてきたことか。
我が巨人軍は永久に不滅です。
1万と2千年前からア・イ・シ・テ・ル!!!!
占星術師ドメネクの詠唱が終わると、水晶がパアッと輝きました。
「おおお! これがフランスが優勝するために必要なこと…!」
「えっ、えっ?」
覗き見はよくないと分かっていても、そんなことを言われると人魚姫も気になってしまいます。つい水晶を見ようと物陰から顔を覗かせました。
「こ、これがフランスが優勝するための…!?」
「むっ! 何奴!?」
ついつい大きな声を出してしまい、ドメネクにバレてしまいました。
「しまった!」
人魚姫は慌てて物陰に潜みます。と、ダダダダダと銃声が響き、本棚が激しく揺さぶられます。
「こ、殺す気ですか!?」
「フランスの優勝のための情報を見知った貴様を、生かしておくわけにはいかぬ!」
ドメネクは更にマシンガンを乱射しようとしましたが、カチカチと音が響くだけです。
「ぬぅ!? 故障か」
(助かった~)
「ええい、ならばこのジダン爆弾を…」
「ジダン爆弾? 時限じゃなくて?」
といぶかしんでいる人魚姫のすぐ前にジダンの顔が描かれたボールのようなものが落ちてきました。そのジダンの顔がニカッと笑います。
「すっごい怖い~!!!」
理由はないのですが、人魚姫はものすごい危険な雰囲気を感じ取り、脱兎のごとく窓から飛び降りようとしました。
次の瞬間、ジダン爆弾がドカーンと爆発しました。
「あ~れ~~っ!」
人魚姫は辛うじて爆発の被害から逃れましたが、爆風を受けてそのまま窓の向こうへと飛ばされてしまいました。
ドメネクが見出したフランスが優勝するために必要なものとは何だったのでしょう。
それは神のみぞ知る、のでしょうか。
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無題 - パレット
こんにちは。
そろそろリーグ優勝も結果待ちとなってきましたが、そんなあきらめ半分の空気を振り払って、W杯の伝説がここで書かれているとは…。
私としては、W杯各グループのワースト1の予想に集中しています。トップ2の予想は誰にでもできそうに思いますので。そしてEグループの場合はやはりどう考えても我が…。
この伝説の続きを楽しみにしています。(笑)