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その3

2009.10.23 - 戦国終わらず
話は少し遡る。
大坂城では5月7日夕方のうちに首実検を済ませると、直ちに次の方針を巡っての軍議が行われた。
その軍議の席に出ているのは、豊臣秀頼、淀の方母子、大野兄弟、真田幸村、毛利勝永、明石全登、長宗我部盛親である。徳川秀忠を討つのに大きな功績のあった前田利常は、そのまま根拠地・加賀へと戻る準備をしており、この軍議には参加していない。
まず大野治房が積極策を唱えた。
「この機に乗じて、一軍で一挙に大和方面から逃れる幕府軍を叩き、別軍で近江まで攻め寄せようではないか」
真田幸村が反対する。
「しかし、我が方も疲弊の極みに達してござる。大和方面にいた伊達隊を中心とした部隊は今日の戦にも参加しておらず、疲労もないであろうから、彼らと戦うのは得策ではござらぬ」
「なれど、せめて近江方面へと手を伸ばしておかねば牢人達に与える領土がなくなる」
大坂城に集まっていたのは大半が領土を持たない牢人である。勝利した以上は彼らに与える領土が必要となるが、今回の戦いはあくまでも篭城戦の勝利であるから、領土がない。特に関ヶ原で没落した元大名などの牢人を繋ぎとめておくためにはどうしてもどこかしらの領地を奪わなければならなかった。
「それは和睦によってどうにでもなるのではござらぬか?」
「和睦? しかし、徳川方が応じるとも思えんが」
「応じるでしょう」
毛利勝永が幸村の後を受ける。
「徳川の譜代達はもちろん主の仇討ちのことを考えているでしょうが、一方で、次のことも考えているでしょう」
「次?」
「大野殿、明石殿、前田殿が征夷大将軍を討ったことで、徳川方ではその次を巡る主導権争いが発生するものと思われます」
「…徳川の清洲会議、でござるな」
明石全登が続く。そこまで言われればもちろん大野達も理解する。
「退却する徳川軍を指導しているのは伊達陸奥守(政宗)と松平上総介(忠輝)です。伊達殿の野心は天下にあまねく知れ渡るところ、上総介殿を擁して、徳川方で大いに力を振るおうとすることは容易に想像できます。つまり、伊達殿は我々との戦いよりもまずは徳川内部を押さえることに力を注ぐでしょう」
「とすると、我々との再戦よりは、まずは適当な条件での和睦ということになるか」
「左様でございます。幸い、こちらには内府殿と将軍殿の首がございますし、その引き換え及び彼らが幕府内で権力を握りやすい二、三の条件でも入れてやれば近江くらいは譲ってくれるでしょう」
「ふうむ…」
「とはいえ、真田殿のように交渉一辺倒というのも面白くありません」
「む…?」
今度は幸村が興味深そうな視線を勝永に向けた。
「このまま北上して、京を切り取っておくのは悪くないでしょう。京の管理も色々な交渉材料にはなるでしょうからな」
「京でござるか? しかし、京都には上杉殿と直江山城守がおる」
「おりますが、あの二人が帝のおわす京で戦を行うとは思えませぬ。近江あたりに引き下がっての決戦を考えるでしょう」
「なるほど…」
上杉景勝の義理と筋目を重んじる姿勢もまた天下に知れ渡っている。
「ひとまず京まで攻め入り、その後和睦にあたるのがよろしかろうと思います」
「…秀頼公、いかがなさいますか?」
大野治房が秀頼に問いかける。問いかける、というよりは確認するだけという方が正しいだろう。場にいる者は全員、毛利勝永一人の力で勝利にこぎつけたに等しいことを理解しているし、その勝永が大野・真田の中間案の折衷案を唱えているのであるのだから、言を無碍にすることはできない。
「豊前の策を採用しよう。だが、条件はどのようにする?」
「まず、近江・大和・摂津の領有は認めてもらうべきでござろう」
「もう一つ」
明石全登がここで進み出る。
「我が主・秀家の流罪を解いていただきとうござる」
「おお、備前宰相殿か」
全登の言葉に秀頼が嬉しそうな顔をした。
秀頼と宇喜多秀家はもちろん血が繋がっているわけではない。だが、秀頼は父秀吉が秀家を生前から養子にしていて、もっとも評価していたという話を母や近臣からよく聞かされていた。それに徳川家が豊臣家から天下を盗もうとした関ヶ原の戦いで主導的な立場にいたのが秀家であることも知れ渡っている。
忘れていた豊臣の守護神のような存在。
秀頼はそんな存在として秀家のことを思い出していた。
もっとも、その秀家のことを秀頼に教えていた近臣、つまり大野兄弟はあまりいい顔をしていない。
「備前宰相殿は確かに自由の身になってしかるべきではあるが…」
「何かご不満でも?」
「…いや」
明らかに不満があるような様子ではあるが、大野兄弟はそれ以上のことは言わない。
「相手が受けるというのなら、それはそれでいいだろう」
「それで、誰が相手との折衝を務めましょう?」
徳川、というより伊達政宗との交渉役は議論の末、真田幸村と大野治長の二人が負うことになった。

毛利勝永は会議が終わると、大坂城内にある屋敷へと戻った。雑兵が勝永の姿を認めると恭しくお辞儀をし、勝永もそれに律儀に応じている。勝永が大坂で一、二の人望を集めているのはこのあたりの分け隔てのない姿勢によるところも大きい。
が、勝永は自分の部屋に入る前、見張りの兵にきつく命令をくだす。
「よいか。誰かわしを訪ねても不在であると答え、部屋には誰も入れるでないぞ」
そう言って、部屋に入ると、勝永は奥の掛け軸を外し、土壁の一部を叩いた。すると、壁の一部が開いて奥への通路が開く。
勝永はその中に入り、奥の部屋へと足を運んだ。僅かに天井からの月明かりが差しこむだけの暗い部屋に一人の老人が臥せっている。
「ご気分はいかがでござるか?」
「…悪くはない」
暗がりでよく見えないが、勝永は老人が笑ったように感じた。
「内府が死んだ。気分が悪いはずがない。礼を申すぞ。豊前殿」
「いえいえ」
「…その後の首尾は?」
「大方私の案が容れられた」
「それは重畳」
「ただ、一つ気になることがござってな。明石殿が備前宰相殿の復帰を強く望まれた」
「ほほう…」
「明石殿に呼応するがごとく、前田殿が寝返って、この話。いささか出来すぎてござらぬか?」
「されば豊前殿はこの後どのようになると考える?」
老人の言葉に勝永は言いよどむ。
「それは…分かりませぬな。備前宰相殿が関ヶ原の折に豊家のために奮闘されたのは確かで、秀頼公にとっても義兄といってもいい存在だ。だから、豊家のために悪しきとはならぬと思うが…」
勝永の迷うような言葉に老人は笑い声をあげる。
「ハハハ、分からぬでもない。宇喜多と前田が組んで秀頼公をないがしろにするということはありえないではないからな」
「……」
「だが、そうそう巧く事も運ぶまい。少なくとも毛利あたりは黙ってはおるまいよ。それに幕府は秀家を釈放するだろうが、伊達もぼんくらではないだろうから、おまけもつけてくれるだろう」
老人はくぐもった笑い声をあげる。
「つまり、色々ややこしいことになるだろうということだ」


翌日。
真田幸村、大野治長の二人は徳川方との交渉にあたるべく大坂城を出発した。
前後して毛利勝永、明石全登、長宗我部盛親らは2万の軍勢をつれて京へと向かった。京までの距離をかなりの早い速度で進軍を続け、翌日8日には高槻方面へと現れる。
その京を任されているのは上杉景勝の率いる米沢勢であった。
「兼続。いかにすべきか?」
景勝はいつもそうするように、直江兼続に意見を求める。
「相手は一昨日戦をしたばかりで、昨日は一日中進軍しているのですから、疲れが抜けているとも思えませぬ。数で劣るとはいえ、ここは正面からぶつかるのが良かろうかと…」
兼続の言葉に景勝は厳しい顔をした。
「しかし、帝のおわす京を戦場にすることはできん」
主人の拒絶を、しかし、兼続はむしろ予想していたかのように受ける。
「ならば、近江方面まで下がり、大津のあたりで迎え撃ちましょう」
「……」
景勝は無言のままだが、その表情から兼続は同意があったと読み取る。
「ただ、おそらく大坂方も大津までは来ないだろうとは思いますが…」

5月9日早朝、上杉軍3千は京を出発して、東へと向かっていった。
物見から報告を受けた毛利、明石勢はそのまま京へ向かい、上杉勢を追いかけることはなかった。


毛利勝永と話していた老人については、まあ、推測がつくかもしれませんけれど、ちょっとくらいはこういう史実関係なしな要素も盛り込んでみたいなー、というところです。
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