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その7

2009.11.06 - 戦国終わらず
6月1日。
大坂から行軍を続けていた東軍のうち、4万が駿府城に到着した。
駿府より西に城を構えている大名は様子見等もあるのだろう、藤堂高虎はじめ大半の者が居城へと舞い戻っている。
であるから、この駿府に行軍を続けているのはほとんどが徳川譜代若しくは側近であった。伊達政宗だけがほぼ唯一の例外といっていい。その政宗のそばには、人知れず真田幸村がついている。

徳川譜代が多いのであるから、行軍している諸将の顔は暗い。
そんな中で唯一明るいといっていいのは松平忠輝の部隊であり、また唯一普通の様子で行軍しているのは松平忠直の部隊であった。
松平越前守忠直は20歳。徳川家康の次男結城秀康の息子である。父秀康はその祖父から嫌われ、不遇のうちに8年前に没したが、将としての素質は高く評価されていた。その息子の忠直もまた、父親譲りの才覚を持つ逸材との評価が高い。
実際、冬の陣では早まった行動をして家康の不興を買ってしまったが、5月7日の戦いにおける松平忠直の働きは敗戦の中でずば抜けたものを見せていた。毛利勝永、真田幸村の攻勢に耐えかねて祖父を守りきることこそできなかったものの、その後も戦線を崩さずに真田勢を一時押し返す奮闘を見せ、真田・毛利勢が岡山口の支援に向かった際には劣勢の状態ながら両部隊の後方を追う豪胆さを見せ付けた。
これも結局秀忠を救うことにはならなかったが、残る部隊をまとめあげて何とか後退に持ち込めた。
大坂方が家康・秀忠を討ち取ったことでそれ以上の攻撃目標を失い、その後しばらく統一された行軍がなかったという幸運はあったものの、多くの大名が何とか逃げ延びることができたのは一重に忠直が遮二無二戦い続けたおかげであるといっても過言ではなかった。

さて、駿府城にたどりついた幕府軍であるが、そこで一つの問題が発生した。
「我々が葬儀に参列できぬとはどういうことでござるか?」
文句を言っているのは土井利勝。
言われているのは伊達政宗である。
「徳川将軍家のことにござれば、貴殿らの参列は無用ということでござる」
「されど、伊達殿は参加するということではござらぬか」
「某が参加するわけではない。上総介殿の体調が優れぬということで、代理として参列させていただくのみ」
「代理が参列できるなどという決まりはどこにあるのでござるか?」
「上総介様が仰せでござる」
「それは伊達殿の決めたことではござらぬのか?」
「ならば上総介様にお伺いされればよかろう」
「そのようなことに意味があろうか。貴殿と上総介様は縁者であるのだから」
「ならばそれで納得されればよかろう。仮にそういう取り決めがなかったとしましても、土井殿のように上様が亡くなられて何もできず、ただ逃げ延びるだけだった者がおられては大御所様と上様が
「ぐっ…」
利勝の顔が怒りで真っ赤になる。もちろん政宗の言葉に対する怒りもあるし、実際何もできなかった以上、言い返すことができないという悔しさもあった。
「なれば伊達殿」
不意に遠くから声がかかった。二人が顔を動かした先ににやにやとした笑みを浮かべている松平忠直の姿がある。
「某は当然参列してよいということであるな?」
「当然にございます」
「ところが某も少し体調が悪い。場合によっては参列できぬやもしれぬが、その場合は代理の者を参列させていいか?」
「…仕方ありますまい」
政宗はけげんな顔をしたが、先程までの発言もあるので変更することはできない。
「それを聞いて安心した。上総介殿にも了承を取っておいてくだされ」
「ようござる」
「利勝、おまえも聞いたな?」
忠直の言葉に利勝の顔がまた赤くなる。名前で呼び捨てにされたのであるから、こちらは単純な怒りによるものであった。だが、政宗に対して僅かなりとも不利に働く事情であれば反対する理由はなかった。
「確かに」
「では、俺はこれで」
忠直は不意に声をかけたのと同じように不意にくるりと背を向けて去ろうとする。
「え、越前様」
それを利勝が追う。
残された政宗は首をかしげた。
「ふむ…一体何をするつもりなのやら」

町へ戻ろうとする忠直を利勝が追いかける。
「越前様!」
「何だ?」
「先程の話でございますが…」
「先程だけでは分からん」
「代理の者のことでござります」
「ああ」
「その役、この利勝めにお任せいただけないでしょうか?」
利勝は先程呼び捨てにされた怒りをおさめて頭を下げる。だが、忠直はあっさりと「嫌だね」と答えた。
「おまえを代理に立てる理由がない」
「なれば、安藤殿か酒井殿、あるいは井伊殿あたりでも」
「何でそんな奴らに代理になってもらう必要がある」
「伊達に対抗するためでございます」
「伊達に?」
「左様。伊達めの魂胆は外様でありながら上様や大御所様の葬儀に出たということで、自分が別格という認識を世間に植えつけたいことにあります。元々の実績や実力も秀でていること等考えればこのままでは伊達めが徳川家を乗っ取るやもしれず、何とかそのための対抗策を考えねばなりません」
利勝が必死に話すが、忠直はまるで気にしない。
「別に構わんではないか」
「か、構わんとは…」
「徳川というのも実際のところ、叔父上(秀忠)とおまえ達のものだったのであろう。それが上総介と伊達に変わったところで俺には何の違いもない。いや、おまえ達には冷遇されてきたが、伊達には恨みはないから、どっちかというと上総介の方がまだ味方できる」
「…べ、別に我々は越前様を冷遇した覚えはございませぬ」
「ほう? ならば何故我が父は将軍になれなかった? 何故我が父は遠い越前などに押し込められたのか?」
「そ、それは大御所様の考えられたことでございまして…」
「ではおまえ達は大御所に意見したのか? 長幼の順を守るべきではないかと家康に意見したのか?」
「……」
「だったら結局変わらんではないか」
忠直を吐き捨てるように言う。
「俺は家康や秀忠の葬儀など参加する気もない。だが、当然おまえ達に参加させる気もない。参加してもらう人間は既に決めてあるからごちゃごちゃ言うな」
「だ、誰を参加させる気なのでござるか?」
「そんなことおまえの知ったことではなかろう。邪魔だからさっさとどけ」
忠直は利勝を突き飛ばして自分の持ち場へと戻っていく。
「おのれ…猪突猛進しか知らん小僧が…」
利勝はそんな忠直の後姿を悔しそうに睨むだけであった。

松平忠直は駿府城を出ると、すぐに越前藩の屋敷には戻らなかった。馬に乗ると供回りもつけずに向かった先は小さな屋敷である。
忠直はそこに入ると、途端に帯などの身なりをきちんと直す。そのまま上に静かな足音で上がった。
「左近将監殿、おられるか?」
「はい」
返事があると、忠直は丁寧に襖を開けて中に入る。
立花左近将監宗茂が静かなたたずまいで茶を立てていた。
「先程、伊達殿に了承をとりつけて参った。代理を立てて良いとのことだ。あの規則に口あるさい利勝も聞いておったから、間違いなかろう」
「……」
「だから、某が左近将監殿を代理に立てても誰も文句を言うことはござらぬ」
「感謝いたします」
宗茂が息子のような忠直に平伏する。
「と、とんでもない。俺…私としてはあまり家康とか秀忠の葬儀に出たいという気にはなれんでな。左近将監殿が代わりに出てくれるのはむしろ渡りに船だ。しかし…」
「何でございましょう?」
「しかし、あまりこういうことを聞かぬ方がいいのかもしれないが、何故立花殿は葬儀に出たいと申される? 左近将監殿にとって徳川家は柳川13万石を取り上げた相手。恨みがあるのではござらぬのか?」
「某は上様の側近として取り立てられ、3万5千石を頂戴しておりました。過去の経緯は経緯としてありますが、恩義は恩義として報いるべきものにございます。某はそれが出来なかった…」
「いや、しかし、あの場で2千の兵で秀忠を守るのは無理でござろう。利勝や忠世らは足しか引っ張らないし…」
「…確かに…」
「あの場に左近将監殿がいなければ、某らも討ち死にしていたかもしれぬ」
「合流した後いきなり采配を渡されたときにはさすがに狼狽しましたぞ」
「私は突き進むしか能がござらぬゆえ」
「前に進み続けることも重要でございます」
「私もそうは思うが、進むだけで方向転換ができん。だが戦場においてはそうも言っておれん。本当は自分でできればと思うが…」
「それは経験を積めばできるようになるものでしょう」
「そうであれば良いのだが…む?」
忠直はその時、階段を上ってくる足音に気付いた。宗茂は平然とした様子で口を開く。
「摂津(十時連貞のこと)、いかがいたした?」
「殿に会いたいと言われる方が来ております」
宗茂はちらりと忠直を見た。忠直は「自分は出た方がよかろうか?」と言おうとしたが。
「何者だ?」
宗茂が先に連貞に聞く。忠直は一瞬「いいのか?」と思うと同時に宗茂が自分のことを信用してくれていることに嬉しさも感じた。
「上様の嫡子竹千代様の乳母でお福と申される方です」
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