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その5

2009.10.27 - 戦国終わらず
5月20日、大坂。
真田幸村は戻ってくると、まず毛利勝永に会いに大坂の屋敷に向かった。
ちょうどその時、勝永は土間の裏で老人と話をしていたところであった。
「…真田殿?」
隠し部屋ではあるが、外の声などは入ってくるつくりになっている。主人は私用で出ているという入口の者の声と幸村のやりとりが明瞭に聞こえてきた。
「真田殿が来たとなれば会わぬわけにはいかない。御免」
勝永は老人に頭を下げ、部屋に戻って玄関へと向かう。
「いかがなされた? 真田殿」
「おお、豊前殿。おられたのか」
「申し訳ござらぬ。囲碁が白熱しておりましてな」
言い訳をして、屋敷の中に入る。
「条件でござるが、大方予想通りのものに落ち着きましてござる」
「それはようござった」
「ただ、伊達殿からは宇喜多殿だけでなく福島殿の大坂入りも認めるとのことであった」
「福島殿か」
勝永はやはりという顔をした。
福島左近衛権少将正則は豊臣秀吉子飼いの家臣であり、その戦歴は故人となった加藤清正と並んで豊臣家では双璧である。徳川方が豊臣を征伐するに際しては、その経歴から豊臣方につかれることを恐れた幕府が江戸留守居を命じられていた。事実上軟禁といっていい。
その正則が自由の身になるというのは豊臣方からすると一見ありがたい話ではある。
だが、問題は彼が宇喜多秀家との関係である。正則は石田三成と対立していたことから三成方についていた秀家には含むところがあるし、秀家も東軍についた正則を裏切り者と思っている。
実際関ヶ原では激しく戦闘を繰り広げ、互いの軍に数え切れないほどの死傷者が出た。
「二人が大坂で主導権争いなどすることが気がかりでござる」
「確かにそうですな。ただ、そのあたりは伊達殿ならやりかねないこと。我々が巧く収めるしかないでしょう」
勝永の言葉に幸村はうつむいて黙り込む。あまりに露骨な仕草なので当然勝永も気付く。
「…いかがなされた?」
「毛利殿。某は大坂を離れることにした」
「……」
「某は必ずしも豊臣家に恩を受けたわけではござらぬ。信州真田の武門の意地として秀頼公の誘いに応じたが、内府を討った以上その義理も果たした。あとは真田の実益のために残りの生を使いたいのだ」
「真田殿がそうお考えなら、私には止める術はござらん。真田殿の武運をお祈りいたすまで」
「すまない。だが…」
「だが?」
「身勝手甚だしいが、某の息子大助は大坂に残ると申しており、できれば勝永殿に引き取っていただければと思う次第なのだ」
「左様でございますか」
勝永はこれは素直に喜んだ。
「ならば、私の息子として育てることといたしましょう」
「すまない」
「して、大坂を出てどちらに参られるおつもりで?」
「仙台に行くつもりだ」
「やはり伊達殿と組むわけですか」
「幕府内での主導権争いで一戦あるやもしれぬ。その際に、経験ある某が必要だとのことだった」
「成功すれば三カ国くらいは固い。ただ、失敗すると…」
「父上と同じことになろうな。だが、それが真田の生き様なのだと思う」
「伊豆守殿だけでなく、息子大助殿も違う陣営に属させるあたりも含めてですかな?」
勝永の問いかけに幸村は無言である。だが、表情は明らかに「得たり」というものであった。

その日のうちに真田幸村は大坂を後にし、僅かな供回りの者だけを連れて駿府に待つ政宗のもとへと向かっていった。

その夜。
勝永は真田大助を呼び出した。
真田大助幸昌は16歳。父親の幸村がどちらかというと物静かな風貌をしているのに対し、こちらは若者らしい荒々しさを秘めている。だが、その中に確かに大器の片鱗があると勝永は感じており、彼を自分のもとで預かれるというのは政略云々を超えたところでうれしいことであった。
「そなたの父君は真田の名前をとどろかすため、伊達陸奥守の下へと行かれた。そなたは父君を追わずとも良いのか?」
「ようございます」
大助ははっきりと答える。
「父上は豊臣家に恩を感じていなかったと申されました。それは仕方ありません。しかし、某はこの2年の間秀頼公と共にし、豊臣家に恩を感じておりまする。戦国の世なればこのようなことが生じるのは不思議ではないと私は父から聞かされておりました」
「そうか。父君は私にそなたのことを頼まれた」
「私も毛利様の下で働きとうございます」
「そう言ってくれると有難い」
「つきましては…」
「む?」
「毛利様の名前を一字拝借しとう存じます」
「お、おう。私の名前か。ならば勝の字を与えよう」
「……」
大助は何やら考えている。
「いかがした」
「実は某、秀頼公から頼の字を頂戴いたしております。それで、どう繋げたものかと」
「ならば頼勝と名乗るがよかろう」
「ただ、秀頼公が我が主君であるとはいえ、毛利様の上の字を私の下の字にあてはめるのは…」
「しかし、勝頼となると武田を滅ぼしたあの勝頼公ということになる。私としては頼勝で全然構わぬが、そなたが快しとしないのであれば、頼永にするがよかろう」
大助は「我が意を得た」とばかりに顔を輝かせる。
「私もそれが一番よいのではないかと考えておりました。では、今後は真田大助頼永と名乗らせていただきます」
その時、玄関の方で騒々しい物音がした。
「毛利殿、毛利殿は不在か?」
「あの声は…大野殿か」
勝永は立ち上がり、玄関へと向かう。
大野治長が血相を変えていた。
「毛利殿、真田殿が大坂を出たというが真か?」
「そのように聞き及んでおります」
勝永の言葉に治長は大きく落胆した顔をした。
「ど、ど、どうすれば良いのだ? 真田殿が徳川につくとなると…」
「やむをえませぬ」
「しかし…」
「いなくなられた者を惜しんでも仕方ありませぬ。誰かが抜けたのであれば、誰か調略するのが戦国の習いでございます」
「そ、そなたには心当たりがあるのか?」
「ございます」
一転、治長は顔をぱっとほころばせる。
「おおお、そうかそうか。さすがは豊前殿。そなただけが頼りじゃ…」
「私だけでなく明石殿や長宗我部殿がおるではございませんか」
勝永の言葉に治長は露骨に嫌そうな顔をした。
「おぬしはそう言うが、明石は宇喜多殿の主宰だからな。宇喜多殿に前田殿が入ってくると、秀頼公がないがしろにされるのではないかが心配だ。ひょっとしたら、秀頼公を追い落として自分が大坂の大将になろうと言い出すやもしれぬ」
「そのようなことは」
と一応否定はするが、その心配自体は勝永もしていたのであるから、あまり否定もできない。
「恩顧の将で頼りなのは真田殿と毛利殿だけ。そう思っていたがゆえに真田殿の出奔は甚だ遺憾なことだ。で、そうそう。替わりに誰を呼ぼうというのだ? どうやって呼ぶのだ?」
「はい。和睦はなりましたが、対等の立場に戻った以上、大坂城の縄張りを再び張らなければなりません」
「うむうむ。確かにあのままではあまりにみすぼらしい」
「そこで諸将に広く大坂再建のための協力の呼びかけをいたします」
「なるほど。太閤閣下が作られた大坂の縄張りを再び行えるというのは名誉なことであるな」
「はい。これを機にその者を抱き込むことができれば大きな力となるものと存じます」
勝永は満面の笑みを浮かべていた。

5月24日。
伊勢・津城。
「父上ーっ!!」
藤堂大助高次が天守をドタバタと走っている。そのまま城主・藤堂左近衛権少将高虎の居室へと飛び込んだ。
「何じゃ騒々しい」
「父上、大坂から城の縄張りを一新してほしいという誘いが来たのは真でござるか!?」
「よう知っておるのう」
「そ、それで父上はそれをいかがなされるおつもりか?」
必死の形相の高次に対し、高虎は呆れたような冷静な顔で答える。
「名誉なことである。喜んで承る返事を出したところだ」
「何故でございますっ!?」
「そんな大声を出さずとも聞こえるわい」
「誤魔化さないでくださいませ! 我ら藤堂家は徳川様より多大なる恩を賜ったではございませぬか!」
「うむ」
「それを、敵方である豊臣方の大坂城を再建するなど…この高次悔しゅうてなりませぬ!!」
「だからそう大声を出すな」
「父上っ!!」
高次は父親であろうと今にも斬りかからんくらいの表情である。高虎は溜息をついて宥めるように言う。
「良いか高次。大坂城は太閤殿下が精魂込めて作られた城。それを再建する役目というのは大変に名誉なことじゃ。それをこの藤堂高虎に任せるという。これ以上の誉はない」
「それとこれとは話が」
「黙って聞かぬか。おまえの言うことは分かるが、わしは終始徳川様に仕えていたわけではない。以前は小一郎様(秀長)にも仕えていたことがあるわけである。わしはあくまでわしを信じて使ってくれるもののために誠心誠意をもって仕えるのであって、大恩を賜ったといえども無条件にその息子に従うつもりはない。いや、そもそも今のままでは息子に仕えるのかどうかすら怪しい」
「…伊達様でございますか」
「そうじゃ。伊達陸奥守と上総介が徳川家を牛耳ってしまうやもしれぬ。そうなってしまえば徳川様の考えは全て水泡に帰すではないか。そのとき、傀儡となった徳川家に唯々諾々と従うのと、一時は裏切り者とののしられようと豊臣方に馳せ参じて徳川家をあるべき姿に戻すのとどちらが忠義じゃ?」
「ううう…」
高次は迷った様子で唸り声をあげる。高虎は舌を出した。
「まあ、そんな殊勝なことを考えているわけではないが、とにかく徳川様に仕えたからといって短絡的に徳川のみに仕えるのがよいというほど事は単純ではないということだ」
「ですが、父上は太閤殿下みまかりし時にはいち早く旗幟鮮明を明らかにして信用を勝ち取ったと聞きました」
「あの時は役者が出揃っておった。だから、誰につけばいいか明白だった。今は違う。わしの目にはまだ役者が全員で揃っておらんように思える。少なくとも全員が出揃うまで、あれこれ旗幟鮮明にするのは賢くない。今は適当にのらりくらりやって、その時が来ればまた明白に仕える者を選ぶべきだ」
「分かり申した…」
高次は不承不承という様子で頷く。
「ですが、大坂城を再建するというのは豊臣方につくということにはなりますまいか?」
「わしは名誉であるから引き受けるまでだ」
高虎は答える。
「無論、大坂の豊臣秀頼公はまだ若いから将来を見込める。恩を売っておくのも悪くはなかろう。ただ、あくまで今回は名誉であるから引き受けるだけで即座に秀頼公に仕えるということにはならぬ。それに…」
高虎の目が妖しく光った。
「作る者には壊す方法も分かろうものだからな」
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