数週間前、私は埼玉県某駅中の立ち食い蕎麦屋でカレーうどんを食していた。
時間は3時半、あまりに微妙な時間であるがゆえに客は私を除いていない。
すると、店員が聞き捨てならない会話をしていた。
「なあ、大宮駅の蕎麦はすげえなぁ」
「ああ、大宮のはすごい」
私は愕然とした。確かに立ち食い蕎麦屋の料理人には自分の料理に対するこだわりというのは低いのかもしれない。しかし、客のいる前で平然と他の店を褒めるのはいかがだろう。まるで、「この駅のを食べているおまえは負け犬だ」と言わんばかりではないか。私はこのような形での侮辱を受けたことがない。そのため、しばらくショックで打ち震えざるをえなかった。
大宮駅。
そこは埼玉県で最も恐ろしい権力の集中した駅である。
かつて「vsさいたま」で触れたように、大宮駅近郊の人口は際立って目立つわけでもない。にもかかわらず、大宮駅は東武野田線、新都市線、京浜東北線、埼京線、川越線などがこぞって終着駅として目指している駅なのである。その権力は横浜駅や名古屋駅にすら匹敵し、複数の新幹線を使い分けるという東京駅並の特権すら認められている。各路線、特にJRの大宮駅に対する偏愛は恐ろしいといわざるを得ない。
かつて埼玉県知事は「大宮駅にないのは地下鉄だけ」と豪語し(注:もちろんそんな事実はありません)、石原都知事が偉そうにしているのに対して、悔し紛れに「高層マンションを数十個建てて土地を広大に開ければ、空港だって作れる。そうなったらおまえらなんてイチコロだ」と言い放ったと言われている。
それが事実であるかどうかについては検証の必要があるであろうが、大宮に空港が出来れば茨城よりはいい空港になる可能性は高い。
周囲ののどかな風景の中に、バベルの塔のごとく存在する大宮駅は、かつてバベルの塔に住んでいた恐れ知らずのオリエント人のように傍若無人である。
例えば、徹底した中央集権を目指す大宮駅は周辺地域の中に武蔵浦和のような中途半端な大宮を名乗る駅など許すことはない。
それどころではない。あろうことか、大宮駅は京都の方にまで影響力を及ぼしている。
京都四条にある大宮駅。通称四条大宮はかつては阪急京都線の特急停車駅であった。
しかし、「特急が止まる大宮駅は日本に2つもいらん」と圧力をかけられ、今では特急が通過するという格下げの憂き目にあった。
人によってはこれをたまたまと言うかもしれない。しかし、それは妄言である。
例えば西武新宿線はそれほど利用されるわけではない狭山市駅から特急停車駅の名誉を奪うことはしなかった。代わりに通勤快速を作り、それには狭山市駅を通過させたのである。特急が止まる駅を通過する電車があるというのも微妙ではあるが、特急停車駅という名誉は奪われるべきではないという西武鉄道の考え方はおそらく大半の者が頷くところであろう。
しかし、大宮駅が一声、「あいつ、気に入らない」と言ってしまえばこのような憂き目に遭うのである。例えば赤羽駅は「大宮駅の機嫌を損ねてはならない」とガクガクプルプルしているかもしれない。
話を最初に戻す。
私はある用事を得て、久しぶりに大宮駅にやってきた。以前は西口から東口に回るために30分以上歩かされた因縁の駅であるが、今回は意外とすんなり移動はできた。
しかし、移動が目的ではない。
埼玉のある駅で負け犬扱いされた私は冒頭の立ち食い蕎麦屋を求めて大宮までやってきたのだ。
私は駅内を歩いて探した。
しかし、立ち食い蕎麦屋は歩いてみた限りでは見つからなかった。
時間も時間なので、私は讃岐そばっぽい普通のうどん屋で食事をした。広い駅内で見つけられなかったのかもしれないし、絶大な権力を誇る大宮駅が単なる一乗客の希望を殊更に踏み潰したのかもしれない。
やはり大宮駅は恐るべき駅である。長野県が色々文句を言っていれば、リニアですら止めてしまうかもしれない。PR
無題 - くがみ
地元民として種明かしをしてしまうと。
大宮駅の立ち食い蕎麦屋は北口側と各線ホーム(それも北口の方の階段下)にはあるのですが、エキュートのある南口側のコンコースにはありません。
次回お越しの際は是非挑戦ください。
っていうか、ホントに何がすごいんでしょうか……。普通のJR系チェーンの立ち食い蕎麦屋のはずなのですが(京浜東北ホームのだけは違ったかな?)